トレイントレイントレイントレイン俺、坂上匡汰。サカウエキョウタと呼ぶ。小学校の担任は読めなかった。 先生、算数が得意とか言ってた。言い訳、見苦しかった。 ああ、俺って、言葉少ないなあ。テレビみたいに話せない。 今だって、ガタンゴトンガタンゴトンって感じで。電車は大好き。けど、何線かわからない。当然、どこへ行くかの漢字も読めなかった。 小一だもんな、馬鹿なのは仕方ない。あ、俺も、言い訳。見苦しい。 トンネル。いい感じ。一番大きい音はゴオーって奴で。 話している人も中断。話が止まらない人は顔を近づけてる。そうだよ耳元で話せばいいんだよ。そしたらばあちゃんだって頷く。うちのばあちゃん、去年死んだけど。 つまらないな。屋根ばっかり続く。 まあ、いいや。 おねーちゃんたちのキンキンした声より俺はゴオーって奴が好き。 駅に着いた。おばちゃんが入ってくる。そう言えばおっちゃんは少ない。ああ、会社だもんなあ。働いているんだ。ケータイ持って。そう言えば、さっき降りた人電車で喋ってた。いけないのに。でも小一だから注意できない。弱虫かなあ。仕方ないのかなあ。弱虫だ、きっと。正義の味方だったら出来るのに。だって、必ず勝つもん。 屋根屋根屋根。の次ぎは橋。ガタンゴトンの音が変わる。 なんか、お経みたいだ。なんだろう。ガタンゴトン。ガタンゴトン。 ガラガラゴットンガラガラゴットンガラガラガラガラゴットントン。 大きな川。橋のシルエット。電車のシルエット。 俺もそこにいる?いるのかなあ。黒いぞ。薄いぞ。ゆらいでるぞ。 俺、坂上匡汰だぞ。背は小さい。声も小さい。目は大きい。 牛乳好き。ニンジン好き。将来の夢、とか聞かれて、運転士さんになりたい、と言った。クラスの誰も反応してくれなかった。シーン。着席の音。 外は春。川のはしには散歩する人。小さい。犬。もっと小さい。 きれいなおねえちゃんの映画の看板。名前、読めた。カタカナだもん。 大きな駅。 吸い込まれてゆく。俺、小さい。そして大人になる。けど。小さい。きっとクラスはシーンとなる。でも大人になる。けど、満員電車でケータイする大人は嫌だ。 出発する電車と行き交う。ランチ800円の布がビルから垂れている。こんな時間だから、人は少ない。あっちは家に帰る人の乗る。俺はいつか奥さんのいる家に帰る。そういう大人になる。のであって、二人分の席をとる大人にはならない。 将来は運転士さんだ。電車にプレートを入れる。坂上匡汰。お客さんを預かる。 うう、かっこいい。 というのは嬉しいけど。ちよっと違う。 電車、大きい駅を通り過ぎる。大きい駅、突き抜ける。行け行け、坂上匡汰。 どこに行くのか自分で決める。自分の電車に乗って大事な人乗せて。 今のところ、お父さんとお母さんと妹。 学校はあまり好きじゃない。ああ、おばあちゃんは好きだった。 俺、運転士になって運転するのだ。そやって、坂上匡汰になる。俺は大人の坂上匡汰になる。どうなるかわからない。けど、走ってく。走ってく。いつかじいさんの坂上匡汰になる。そして、いつか死ぬ。けどけどけどけど。 俺、まだ、あんまり言葉知らない。【終】 |